ロック・ファンのみなさまに、ロック・ファンの目線でジャズの魅力とおすすめのアーティストとそのアルバムをご紹介したいと思います。
今回、ご紹介するアルバムは、”Diana Krall”:(ダイアナ・クラール)の”Wallflower”です。
アルバム”Wallflower”は、”Diana Krall”の音楽活動に影響を与えてきたポップ・ソングやロックの名曲の数々をデイヴィッド・フォスターのアレンジで、”Diana Krall”がカバーした作品です。
ロック・ファンが、”Diana Krall”の魅力、またジャズの魅力を知る上で役に立つことでしょう。
なお、日本版には、ボーナス・トラックとして、”The Beatles”の”In My Life”が収録されているので、ぜひ、そちらの方の購入をおすすめします。
曲目リスト
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- California Dreamin’
- Desperado
- Superstar
- Alone Again
- Wallflower
- If I Take You Home Tonight
- Sorry Seems to be the Hardest Word
- Operator
- I’m Not in Love
- Feels Like Home
- Don’t Dream It’s Over
BONUS Tracks
- In My Life
- Yeh Yeh
- Sorry Seems to be the Hardest Word (Live)
- Wallflower (Live)
ロックの名曲をジャズの女王が歌う
1曲目の”California Dreamin'”:
原曲は、邦題「夢のカルフォルニア」で、日本でもおなじみの「ママス&パパス」の作品です。
カリフォルニアというと、真っ青な空とまばゆいばかりの光にあふれたイメージが思い浮かびますが、曲の方は、”All the leaves are brown”、”And the sky is grey”と訪れる冬の季節を歌った模様で、どことなく感傷的な雰囲気が漂っています。
“Diana Krall”が、歌う”California Dreamin'”は、原曲よりもさらに、物憂げな様相が深まってくるような気がします。
しかし、彼女が弾くピアノには軽やかな響きとともに、光り輝く希望のようなものを感じます。
2曲目の”Desperado”:
比較的原曲(”Eagles”(イーグルス)の作品)に忠実なアレンジで、”Diana Krall”の弾き語りに、ストリングを絡めた美しい仕上がりになっています。
まだ、あの有名な「ホテル・カリフォルニア」が発表される前のカントリー・ロック色の強いイーグルスの哀愁を帯びた作品は、”Diana Krall”の繊細なピアノで、原曲の美しさをさらに引き出しています。
この”Desperado”は、”Carpenters”(カーペンターズ)もカバーしていて、こちらのアレンジは、原曲のイメージに近いカントリー・ミュージック風です。
ただ、カレンの歌声の美しさは特筆すべきものがあります。
3曲目の”Superstar”:
前局の”Desperado”を、カバーした”Carpenters”のカバーです。
何か上手に橋渡しをしているような感じです。
カーペンターズの曲は、楽曲の素晴らしさからよくカバーされていますが、実は、とてもカバーが難しいと思います。
なぜなら、カレンの歌唱力があまりにもすごくて、どうカバーしても原曲には及ばないという結果になるからです。
だから、数少ない成功例として、レゲエ風にアレンジしたとか目先を変えたものに限られていたと思います。
しかし、”Diana Krall”は、歌唱力という点でも申し分なく、彼女の確固とした音楽スタイルに曲をうまく溶け込ませています。
5曲目の”Wallflower”:
原曲は、”Bob Dylan”(ボブ・ディラン)の作品です。
フォーク・ロック調のこの曲は、ギターとハーモニカで演奏されていますが、もちろん”Diana Krall”は、ピアノの弾き語りで勝負です。
ジャズ・シンガーの女王が、これほど、カントリー・ミュージックやフォーク・ロックを崇拝していたとは驚きです。
音楽はジャンルを超えてつながるものがあるのでしょう。
6曲目の”If I Take You Home Tonight”:
“Paul McCartney”(ポール・マッカートニー)が書き下ろした新曲という点で話題性十分な作品です。
ポール・マッカートニーとジャズの組み合わせはあまりピンと来ませんが、”Eleanor Rigby”(エリナー・リグビー)で、ロック・ミュージックにバイオリンなどのストリングスを効果的に用いたのも彼の仕業ですから、今回の”Diana Krall”とストリングスと楽曲の組み合わせも的を得たものかも知れません。
7曲目の”Sorry Seems to be the Hardest Word”:
この曲は、”Elton John”(エルトン・ジョン)の作品で、こうなってくるともう大物シンガー総なめという感じです。
興味深いのは、エルトン・ジョンよりも、女性である”Diana Krall”の方がだいぶ低い声で歌っているということです。
ロック・ファンであり、ジャズ初心者である私のジャズ・シンガーのイメージは、”Halie Loren”(ヘイリー・ロレン)のような甘い歌声の持ち主という感じでしたが、最初に”Diana Krall”の歌声を聴いたときは、あまりの低音に戸惑いました。
しかし、甘い歌声のジャズ・シンガーの曲ばかり聴いているとあの低音が無性に聴きたくなるものです。
10曲目の”I’m Not in Love”:
原曲は、ジャズに限らず、様々なジャンルでカバーされている”10cc”の名曲です。
このアルバムは、様々な点で、”The Beatles”とのつながりを感じます。
前述した”If I Take You Home Tonight”は、ポール・マッカートニーから提供された楽曲されたものですし、このアルバムの日本版には、ボーナス・トラックとして、”John Lennon”(ジョン・レノン)の”The Beatles”時代の作品”In My Life”のカバーが収録されています。
そして、”10cc”と”The Beatles”の関係です。
“10cc”は、サード・アルバムの”The Original Soundtrack”でこそ、比類なき美しい楽曲を生み出していますが、前2作は、英国のロックらしいシニカルな面が全面に出たややくせのある楽曲が多かったものです。
中でも、ファースト・アルバムに収録されていたシングル曲”Donna”の前奏は、”The Beatles”の”Oh! Darling”の完全コピーと度肝を抜かれるものでした。
そして、セカンド・アルバムの”Sheet Music”に収録されている”Somewhere In Hollywood”では、”The Beatles”の”The Long And Winding Road”のフレーズが見え隠れして思わず苦笑いしたものです。
話は戻って、”I’m Not in Love”の”Diana Krall”のカバーの出来映えは、最初にこの曲がカバーされたという知らせを聞いてから、ずっと楽しみにしていたのですが、実際に聴いてみて、期待以上の出来に、原曲の素晴らしさと、”Diana Krall”のこの曲をものにしてしまう凄さを改めて感じました。
>曲”I’m Not in Love”に関する記事はこちらから
13曲目(ボーナス・トラック1曲目)の”In My Life”:
原曲は、言わずと知れた”John Lennon”の”The Beatles”時代の名曲”In My Life”です。
“In My Life”自体は、私にとってとても思い入れが強い曲です。
私が洋楽のアルバムを最初に買ったのがこの曲が収録されている”Rubber Soul”(ラバー・ソウル)でした。
このアルバムに収録されている”Girl”と”In My Life”(どちらも”John Lennon”の作品)の2曲は、中学生の無垢の心に強烈に響きました。
これが、私と洋楽の出会いでした。
今の若いひとは知らないかも知れませんが、”Rubber Soul”(ゴムの魂)というのは、”Rubber Sole”(ラバー・ソール=ゴム(底)ぞうり)をもじったものです。
“Beatles”自体、”Beetle”(カブトムシ)からの造語でしたから、彼らはとてもウイットがあったと思います。
“Diana Krall”の”In My Life”は、原曲の美しいイメージを損なわず、彼女の音楽観にうまく溶け込んでいると思います。
やはり、彼女の原曲へのリスペクトが感じられる素晴らしいカバーです。
それでも、”Diana Krall”のおすすめアルバムはこれ!
アルバム”WallFlower”は、ポップ・ミュージックやロック・ミュージックの大物シンガーの名曲が目白押しの魅力的なカバー・アルバムでしたが、”Diana Krall”の魅力をもっとよく知っていただくのなら、”The Look of Love”と、”Quiet Nights”の2枚のアルバムをおすすめしたいと思います。
やはり、ジャズ・シンガーの女王、名ジャズ・ピアニストの”Diana Krall”の魅力は、ジャズ・スタンダード・ナンバーでより発揮されると思うからです。
>アルバム”The Look of Love”に関する記事はこちらから
>アルバム”Quiet Nights”に関する記事はこちらから
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