とうとうこのアルバムで、今までに確立してきた”INXS”サウンドを自ら打ち破ろうとしました。
“Listen Like Thieves”でバンドの音楽性を確立し、続く”Kick”、”X”で自ら掲げた音楽スタイルを貫き多くの音楽ファンの支持を得てきました。
アルバム・タイトルの”Whereever You Are”:あなたがどこにいようとも同様、”INXS”がどのようなスタイルの音楽に挑戦しようとも、一度虜になった”INXS”サウンドは、”Welcome to”「大歓迎です。」
どのような音楽が展開されるのかとても楽しみです。
曲目リスト
- Questions
- Heaven Sent
- Communication
- Taste It
- Not Enough Time
- All Around
- Baby Don’t Cry
- Beautiful Girl
- Wishing Well
- Back On Line
- Strange Desire
- Men And Women
“INXS”は、サージェント・ペッパーズを作ろうとしたのか!
1曲目の”Questions”:
曲調は、アラビアンナイトの世界を彷彿させるもので、使用されている楽器も、インド音楽に用いられるようなものです。
これまでの、”Listen Like Thieves”、”Kick”、”X”の流れとはあきらかに異なるサウンドで、もはや、これまでの延長線上には全くないものでした。
この曲を一曲めにもってくることは、”INXS”の音楽は変わろうとしているというメッセージのように思えます。
“The Beatles”(ビートルズ)が、アルバム”Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band”で見せたような大変革を感じさせます。
その時も、架空のバンドのSgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band”のテーマ・ソングの後は、インド音楽にどっぶり浸かった”Within You Without You”でした。
2曲目の”Heaven Sent”:
「さっきは、驚かせてごめんね!」とばかりに、黄金期にみせた”INXS”サウンドを再び披露してくれています。
「”INXS”のコアの部分は、忘れていないからね!」と急激な変化で動揺したファンの心を落ち着かせる「気つけ薬」のブリッジ曲です。
しかし、気つけ薬としては相当ヘビーです。
“The Beatles”が、熟練した後期のアルバム(俗にいうホワイト・アルバム)の”Helter Skelter”のヘビーさと重なります。
4曲目の”Taste It”:
前作の”X”で多用していたハーモニカと、サイレンサーを施したサックスの重たい雰囲気の音が、緊張感を嫌がおうにも高めてくれます。
そして、その重たい空気が、サビの部分で爆発します。
このへんの音楽的志向は、すでに前作の”X”にも、すでに見え隠れしていました。
音楽スタイルの革新にも伏線が感じられます。
5曲目の”Not Enough Time”:
このゆったりとしたテンポが成熟した”INXS”を感じさせます。
女性のバック・コーラスの起用もこれまであまりなかったのではないでしょうか。
この変化”Welcome”「歓迎」します。
この路線でしばらくいってもいいのではないかと思います。
(と言っても、”INXS”はそんな安住の地にとどまっていることにはがまんできないでしょう。)
7曲目の”Baby Don’t Cry”:
穏やかで、幸福感に満ちたこの曲調は、一体どうしたことでしょう。
晩年になって、”All You Need Is Love”を作ってみたくなったのでしょうか?
(今回は、ちょくちょく”The Beatles”の曲の比喩がとびたしています。この”Welcome to Whereever You Are”というアルバムは、”The Beatles”が、いよいよ芸術性を高めていく”Revolver”以降のアルバムを連想させずにはいられません。)
“Blur”が、晩年に、”Tender”を創り出したように・・・。
8曲目の”Beautiful Girl”:
アルバム中で、もっとも驚いたのが、この曲です。
前作までの展開では、まったく想像がつかなかった音です。
前作のアルバム”X”では、これまであまり聴くことがなかったバラードの”By My Side”が登場しますが、この”Beautiful Girl”は、それにも増して愛らしくもあり、幻想的ですらあるからです。
“INXS”という音楽のスタイルを確立したと言って過言ではない、”What You Need”からは、想像もつかない展開です。
“Welcome to Wherever You Are”は、”INXS”の「守破離」の「破」!
“INXS”の音楽活動の軌跡をたどってみると、彼らの存在を知らしめたのは、”Original Sin”の大ヒットでした。
しかし、それは、当時の売れっ子プロディーサーのNile Rodgers「ナイル・ロジャース」が手掛けた作品で、ダンサンブルなエレクトリック・ポップ調の曲でした。
曲の出来は大変良かったと思いますが、どこか借り物のような曲に感じました。
その後、”What You Need”をリリースした時には、「これぞ、”INXS”の音楽スタイルだ」とメンバー自身も確信したのではないでしょうか。
この音楽スタイルは、次作の”Kick”、次々作の”X”に引き継がれ、”INXS”の黄金時代を築き上げました。
言わば、この時期が、「守破離」でいうところの「守」の時代だったと思います。
そして、今回のアルバム”Welcome to Wherever You Are”で、バンドは、自らの音楽スタイルを打ち破る決意をしました。
「初心忘るべからず」という室町時代に能を大成させた「世阿弥」の執筆「花鏡」の中の言葉がありますが、一時代を築いたアーティストがふりかえって、自らの芸を見つめたときに思う言葉でしょう。
この言葉は、「世阿弥」は、今日に解釈されているような「原点を思い出せ」という風には使っていません。
売れていた頃の「焼き直し」を勧めているわけではけしてありません。
ロック・アーティストも、一度、世界を席巻した後の時点で、また新たな「花」を見つける必要があるのです。
それが、「世阿弥」の「時々の初心を忘るべからず」、「老後の初心を忘るべからず」という言葉の意味です。
“INXS”も成熟期ならではの初心を探しているのです。
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