“10cc”の8作目のアルバムです。
商業的なセールスは、あまり芳しくなかった作品でしたが、発売された時代の音楽シーンとあまりマッチしていなかったのが原因なのでしょうか。
しかし、収録されている作品はすこぶる完成度の高い上質なロック・ミュージックです。
各曲の出来具合は、”Bloody Tourist”や”Deceptive Bends”と比べても遜色ないです。
“Eric Stewart”と”Graham Gouldman”のソング・ライティング力は健在で、今聴いても決して色褪せることのないでしょう。
音楽シーンの中で、埋もれてしまうのには、あまりにももったいない美しいメロディをもった秀作揃いのアルバムです。
<曲目リスト>
- Don’t Ask
- Overdraft in Overdrive
- Don’t Turn Me Away
- Memories
- Notell Hotel
- Les Nouveaux Riches
- Action Man in Motown Suit
- Listen with Your Eyes
- Lying Here with You
- Survivor
今、発表していればもっと売れたのでは?
1曲目の”Don’t Ask”: 歌詞の内容としては、前作のアルバム”Look Hear”の”I Hate To Eat Alone”の応答歌とも言える、さらには、デビュー・アルバムの”The Hospital Song”に通じる曲です。
「誰といっしょに食事をとるの?」と聞かれて「ひとりで食べるさ」と応える寂しい人が、”Don’t Ask”(聞かないで)とこぼしたり、”Nobody Send Me Birthday Card”(誰も誕生日のお祝いカードを送ってくれない)と言ったりする”10cc”お得意のシニカルな内容の曲です。
そう言えば、名曲”I’m Not in Love”の語りも素直ではないですね。
と言っても、楽曲の美しさは、10ccならではのもので、間奏のギター・ソロも魅力十分です。
3曲めの”Don’t Turn Me Away”: “Eric Stewart”の甘く切ない歌声が、甘美なメロディに実によくマッチしています。
“Eric Stewart”の奏でるキーボードと、サックスのソロが美しい曲に花を添えています。
美しいメロディは、アルバム”Deceptive Bends”時代の曲を思わせますが、”Deceptive Bends”ほどのひねりがないため、このアルバム”Ten Out of 10″を、昔からの”10cc”ファンは少しもの足りないと思うのかもしれません。
5曲目の”Notell Hotel”: アルバム・タイトルこそつけていませんが、このアルバムの表題曲とも言える曲です。
歌詞の中に、”The Waiter Trip and Drop the Dinner on the Floor”や”Bellboy Smiled as the Elevator Started to Fall”が、アルバム・ジェケットで再現されています。
まさに、「ミステリー・ホテル」、前作のアルバム”Look Hear”の”You Have No Shadow”(影のない恋人)
“Stranger Lover”の世界です。
これまた、”10cc”お得意のホラーの世界です。
7曲目の”Action Man in Motown Suit”: ボーカルの”Graham Gouldman”のしっとりとした歌声がゆるやかに始まると、やがて曲調が変わり軽やかなリズムを刻みます。
こうした曲調の変化は、”10cc”の十八番でしたが、このアルバムではそうした傾向は影を潜めています。
そうした落ち着いた雰囲気のアルバムを、AOR的と評するライナー・ノーツもありましたが、”10cc”の極上のメロディをじっくり味わいたい向きには、歓迎すべきことなのでしょう。
9曲目の”Lying Here with You”: ピアノの伴奏だけとっても非常に美しい曲です。
キーボードで奏でているストリング風の音色が、またピアノの伴奏に上手く溶け込んで美しいハーモニーを生み出しています。
ボーカルの”Eric Stewart”の歌声が、あの名曲”People in Love”を彷彿させる美しい響きを感じます。
10曲目の”Survivor”: この曲には、”Ten Out of 10″ 100点満点をあげたいです。
ドラムロール後に続く、Bメロ部分のメロディの美しさとサビの部分はまさに美の競演です。
サビの部分の後に繰り返されるAメロまでもが、鮮やかに息を吹き返します。
エンディングのギターの音色が極上の音楽を聴いた後の豊かな余韻を残してフェードアウトしていきます。
“Ten Out of 10” 100点満点のサウンド
“Ten Out of 10″というのは、「100点満点」という意味です。
100点満点と言えるかどうかは別として、楽曲の質としてはかなりの高得点であることは間違いないでしょう。
“Eric Stewart”と”Graham Gouldman”の繰り出すメロディは、極上で心地良いものですが、単に”AOR”と当てはめるのは、的外れだと思います。
耳に心地良いと簡単に片づける音楽ではなく、”Listen with Your Eyes”(注意深く心の目で聴く)神々しいほどのメロディを持つのが”10cc”の音楽なのです。
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