“Enya”の2作目のアルバムです。
デビュー・アルバム”Watermark”収録曲の”Orinoco Flow (Sail Away)”で、その存在を世に知らしめ、そしてこのセカンド・アルバム”Shepherd Moons”の”Caribbean Blue”、”Book Of Days”の2大ヒット曲で、人気を不動のものとしました。
デビュー・アルバム、セカンド・アルバムの全世界での販売枚数が、それぞれ1,000万枚を超えるというセールス記録には、驚きです。
精緻で決して手を抜かない音作りの”Enya”の音楽ではありますが、大衆におもねいているわけでもない”Enya”の音がこれだけ支持されているのは、現代人がどれだけ”Enya”の音楽を求めているかの証でしょう。
<曲目リスト>
- Shepherd Moons
- Caribbean Blue
- How Can I Keep From Singing?
- Ebudae
- Angeles
- No Holly For Miss Quinn
- Book Of Days
- Evacuee
- Lothlorien
- Marble Halls
- Afer Ventus
- Smaoinim
教会音楽を思わせる神聖な調べと崇高な歌詞
1曲目の”Shepherd Moons”: 表題曲のインストルメンタル・ナンバーです。
このタイトルの”Shepherd Moons”は、何かひっかかるものがありませんか?
“Moons”、この世にひとつしかない「月」がなぜ複数系なのかと思った人はいませんか?
実は、”Shepherd Moons”とは、「羊飼い衛星」の意味です。
羊飼い衛星というのは、その衛星の重力作用により、惑星の環に影響を与え、その崩壊を防いでいる衛星のことです。
太陽系内では土星と天王星及び海王星に羊飼い衛星が確認されています。
“Moons”というのは、「月」ではなく「衛星」のことでした。
それなら合点がいきますね。
“Shephed Moons”、天体の未知なる神秘的な想いが、”Enya”の奥深い世界に重なってきます。
2曲目の”Caribbean Blue”: すでに、音楽的手法や音楽的スタイルをデビュー・アルバムで確立してしまった”Enya”にとって、このセカンド・アルバムも、その後のアルバムにおいても、それは不変のものです。
しかも、その風貌もデビュー当時とあまり変わっていないと思いきや、このミュージック・クリップや、本作””Shepherd Moons”のアルバム・ジャケットを見る限り、若々しさを感じます。
特に、アルバム・ジャケットの写真には、少女のような面影を見出すことができます。
一方、”Caribbean Blue”の音は、「おとぎの世界」のような幻想的な空気に満ちています。
3曲目の”How Can I Keep From Singing?”: 何と清らかで神聖な音楽なのでしょう。
教会音楽を思わせる心が洗われるような調べと、”Enya”の歌声です。
4曲目の”Ebudae”: アイルランドの精霊が宿っているかのような”Enya”の世界観がそこにはあります。
八百万の神の自然信仰を唱えてきた日本人には、共感するところも多い精神世界でしょう。
5曲目の”Angeles”: 3曲目の”How Can I Keep From Singing?”と同様、教会音楽を思わせる神聖な調べに、”Enya”の天使のような歌声がとてもよく溶け込んでいます。
天使がいるとしたら、きっと、こんな音楽とともに現れるのではないかと容易に想像できます。
7曲目の”Book Of Days”: 心身の安定や心の安らぎに重要なはららきをする「セロトニン」が分泌されているのがわかります。
脳内で、必須アミノ酸であるトリプトファンがセロトニンを合成しているのが、ひしひしと伝わってきます。(そんな感じがします。個人の感想です。)
力強い曲調ですが、と同時に、安らぎを覚えます。
世界中の人が、”Enya”の音楽に魅了されています。(治療を受けています。信仰の対象ともなっています。)
しかし、世界で一番”Enya”の音楽の効能を得ているのは、”Enya”自身ではないでしょうか。
“Enya”の音をいつも浴び続けている彼女こそが、「セロトニン」がもっとも合成されている果報者だと思います。
そのため、いつでも、魅力的で若々しく穏やかな姿を見せてくれます。
8曲目の”Evacuee”: “Evacuee”何からの避難なのでしょうか。
避難の先は、我が家であったり、母親の暖かい腕に抱かれることだったりすることでしょう。
“I Must Wait Until It’s Over”、何の終焉を待っているのでしょうか。
自分を守ってくれているものは、永遠のものではないというをわかりすぎるぐらいわかっているのでしょう。
だから、その日が来るのをただ待っているしかないのだと思います。
抗うことのできない運命を受け入れ、現実を精一杯生きるのが女性の強さだと思います。
男のロマンは、現実逃避ですが、女性のロマンは、現実の世界に理想を求めるという点で逞しさを感じます。
ただ、我々リスナーは、”Enya”の音楽で、日常の様々な苦難からどれだけ救われているでしょうか。
そして、その幸福感はいつまでも続いて欲しいと願わずにはいられません。
9曲目の”Lothlorien”: ピアノの名曲に名を残すのではないかと思うほどの名曲です。
リストの「愛の夢」、メンデルスゾーンの「春の歌」、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」の過去のピアノ名曲集に飾られる名曲たちと比べても遜色がないと思います。
10曲目の”Marble Halls”: 「大理石の館」は富の象徴です。
金銭的な富などには、何の関心もなさそうな”Enya”ですが、曲中でも、こう歌っています。
“I Dwelt in Marble Halls”「大理石の館に住んでいるの」”I Had Riches All to Great to Court”「数え切れない富を所有しているの」とそんな夢を見たと言います。
でも、夢の中で一番嬉しかったことは、夢の中でも、現実と同じようにあなたが私を愛してくれたこと、と続けます。
楽曲も崇高ですが、歌詞の内容はそれ以上に崇高で気高いものです。
ケルト音楽に根ざした”Enya”の音楽観
“Remastered SHM-CD版”のボーナス・トラックには、15曲目に、”Oriel Window”というシングル曲の”Caribbean Blue”のB面に収められていた曲があります。
ピアノのインストルメンタル・ナンバーですが、同郷のアイルランド出身のバンド”The Cranberries”のアルバム”Bury The Hatchet”に収録されていた”Dying In The Sun”と同じ匂いを感じます。
曲調は全くことなるアーティスト同士ですが、根底に流れるアイルランドの音楽に共通点があるように思えます。
>”The Cranberries(クランベリーズ)”に関する記事はこちらから
>アルバム”Bury The Hatchet”に関する記事はこちらから
“Enya”の音楽的な手法を模倣しても、”Enya”と同等の楽曲を作ることは、不可能でしょう。
なぜなら、”Enya”の音楽には、ケルト文化に根ざした深い音楽観があり、彼女の内から湧き出るイメージが”Enya”という音楽を形作っているからです。
そうした精神世界のイメージをそう容易く模倣できるものではないでしょう。
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