“Heaven17″のデビュー・アルバムです。
“Human League”時代から通算して、3作目のアルバムです。
なぜ、”Human League”時代から通算したのかというと、”Philip Oakey”率いる新生”Human League”よりも、”Ian Craig Marsh” と”Martyn Ware”のコンビによる”Heaven17″の方が、より、分裂前の”Human League”の音に近いからです。
しかし、”Heaven17″の音楽は、ただ、分裂前の”Human League”の音楽を引きずっているわけではありません。
実験で得た成果を、ポップ・ミュージックに昇華させる試みを繰り返し、リスナーに支持される音楽を作り上げました。
<曲目リスト>
- (We Don’t Need This) Fascist Groove Thang
- Penthouse And Pavement
- Play To Win
- Soul Warfare
- Geisha Boys And Temple Girls
- Let’s All Make A Bomb
- The Height Of The Fighting
- Song With No Name
- We’re Going To Live For A Very Long Time
実験的なサウンドをポップ・ミュージックに昇華
1曲目の”(We Don’t Need This) Fascist Groove Thang”: “B.E.F.” (”British Electric Foundation”)研究所の偉大なる研究成果第1号です。
“B.E.F”は、エレクトリック・ポップを世に送り出すための研究機関で、主に研究成果を”Heaven17″というアーティストを通じて世に送り出しています。
“B.E.F”での研究レベルの音では、リスナーには、受け入れ難いため、マーケティング手法を駆使して、”Heaven17″が、皆さまのお耳に合う状態でお届けしています。
本作の”Penthouse And Pavement”のアルバム・ジャケットの裏面を見ていただきますと、LP時代の名残でしょうか、アルバムが、前半4曲の”Pavement Side”と後半5曲の”Penthouse Side”に分かれています。
“Penthouse”:「屋上に突出した小さな部屋部分。転じて、マンションやホテルで最も価格の高い最上階の部屋」、”Pavement”:「歩道」という対比は、次作のアルバム”The Luxury Gap”にも見られます。
“Pavement Side”の方は、総じて、ダンサンブルで、分裂前の実験的な”Human League”時代の音から脱皮しているように思えます。
一方で、”Penthouse Side”は、実験的な”Human League”時代の音に近い感じがします。
2曲目の”Penthouse And Pavement”: 表題曲であると同時に、前身の”Human League”から脱皮して、”Heaven17″は、こういう音楽を志向していくんだという主張が感じられる曲です。
従来の”Human League”には、なかったベース・ギターやパーカッションのリズム、エモーショナルな女性のバック・コーラスなどファンキーな音が聴けます。
3曲目の”Play To Win”: 「実験的なサウンドを、ポップ・ミュージックに昇華させる試み」
もっとも成功した事例ではないでしょうか。
“Penthouse Side”が、最上階で、頭の部分であるとしたら、”Pavement Side”は、足の部分です。
ファンキーで、ダンサンブルな作品が目白押しです。
ステップは、足で踏むもの。
まさに、”Pavement Side”は、心躍るサウンドです。
ところで、”Pede”という単語は、英語で足を意味する言葉で、ラテン語 pedis (= foot)から来ています。
“centipede”「ムカデ」は、”centi”「100」の”pede”「足」となります。
“pedicure”「ペディキュア:足の指の装飾」は、”pede”「足」の”cure”「治療」という具合です。
5曲目の”Geisha Boys And Temple Girls”: ここからが、”Penthouse Side”です。
“Geisha”や”Temple”は、欧米人が考えるステレオタイプ的な日本文化です。
まさに、”Penthouse”「最上階」に位置する「頭」で考える発想です。
曲の冒頭に聴こえるシンセサイザーの音は、日本の楽器「琴」や雅楽をイメージしたものでしょうか。
7曲目の”The Height Of The Fighting”: ダンサンブルでノリのいいこの曲は、”Pavement Side”に入っていてもおかしくないナンバーです。
8曲目の”Song With No Name”: 初期の”Human League”を思わせっるような実験的なサウンドです。
同様に、9曲目の”We’re Going to Live for a Very Long Time”にも、初期の”Human League”の香りがします。
“Simple Minds”の音も、初期の頃は、このような実験的な曲が大半で、それぞれのアーティストが、独自の音楽を作り上げるまでに、いろいろと模索していた時期だったのかもしれません。
実験中止か、継続か
分裂前に、”Reproduction” 、”Travelogue”の2作のアルバムを発表していた”Human League”が、”Philip Oakey”率いる新生”Human League”と、”Heaven17″に分かれてからの活動内容は実に興味深いものがあります。
実験的なサウンドに、終止符を打ち、華々しいエレクトリック・ポップを展開し、一躍時代の寵児となった新生”Human League”と、さらなる実験を続けながら、その実験結果をポップ・ミュージックに昇華していった”Heaven17″の動向は対象的です。
しかし、どちらも、魅力的な音楽を世に送り出し、聴衆に支持されたことにはかわりがないでしょう。
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