“OMD”7作目のアルバムで、このアルバムから、バンド名の”in The Dark”「暗闇」から抜け出てきた感があります。
“Pacific”(太平洋の)大海原に船出した彼らのサウンドは、アルバム・ジャケットのような色彩を帯びてきました。
曲調もずっと明るくなり、エレクトリック・ポップに分類するのも躊躇したくなる変貌ぶりです。
<曲目リスト>
- Stay (The Black Rose And The Universal Wheel)
- (Forever) Live And Die
- The Pacific Age
- The Dead Girls
- Shame
- Southern
- Flame Of Hope
- Goddess Of Love
- We Love You
- Watch Us Fall
暗闇から抜け出てきた”OMD”
1曲目の”Stay (The Black Rose And The Universal Wheel)”:何よりも明るい曲調に驚きです。
今までの”OMD”のイメージを根底から覆すほどの変化です。
バックのパワフルな女性ボーカルの使い方が”OMD”にとっては斬新すぎるほどに斬新です。
2曲目の”(Forever) Live And Die”:とうとうブラス・セッションまで飛び出してきました。
「”OMD”よ。悩みなどないのか」と思えるほど、今までのサウンドにあった憂いみたいなものが皆無です。
随分とカラっとした音になりました。
あまりの音の変化に戸惑いましたが、楽曲の良さと”Paul Humphreys”の爽やかな歌声は魅力たっぷりです。
4曲目の”The Dead Girls”:少し安心しました。
3作目のアルバム”Architecture & Morality”の”Joan Of Arc”あたりの音です。
一番、”OMD”らしさを実感させるあの頃の音です。
5曲目の”Shame”:”Andy McCluskey”の切ない歌声とキーボードの哀愁を帯びたメロディーがほどよくマッチしています。
どこか懐かしい香りが漂う曲です。
6曲目の”Southern”:前作のアルバム”Crush”の表題曲である”Crush”のコラージュ的なサウンドも十分に新しい試みでしたが、今回の”Southern”の挑戦はそれをはるかに凌駕しています。
ドラムの刻みは、もはや従来の”OMD”のリズムにはないものです。
この曲が、アルバムでなく、単独でかかっていても”OMD”の曲だとは思わないでしょう。
8曲目の”Goddess Of Love”:私のこのアルバムでの一番のお気に入りの曲です。
バックの音が、”If You Leave”のような音を刻んでいるのがちょっと気になりますが、これぞ”OMD”の音というのが随所に感じられます。
まず、”Andy McCluskey”と”Paul Humphreys”のボーカルの掛け合いが見事です。(これも、このアルバムが最後だと思うと本当に惜しいです)
“We Love You”のように、キャッチーで、放っておいても売れそうな曲はともかく、この”Goddess Of Love”のように大衆に迎合することなく個性を出しきっている曲こそ応援したくなります。
実は、私は、”If You Leave”という曲については、少し懐疑的です。
確かに、メロディーも良く、映画の挿入歌としても使われアメリカでもヒットしたのですが、何か大衆に迎合して、”OMD”のこれまでの音楽性が希薄だと感じているからです。
アメリカでの成功が必ずしも良い結果に結びつかないことを多くのアーティストを通じて見てきています。
“Simple Minds”や”Super Tramp”などが良い例だと思います。
「大量生産、大量消費」の世界に飲み込まれてしまい、一時的にはもてはやされても、大事なバンドの個性が擦り切れられてしまうのではないかと思うのです。
9曲目の”We Love You”:このアルバムで”OMD”のサウンドが大きく変わったとしても、この曲の価値は普遍です。
昔からの”OMD”ファンも、初めて”OMD”を聴く人も、この曲は気に入ってもらえると思います。
それだけのポテンシャルをこの曲は持っています。
前作のアルバム”Crush”の”So in Love”ばりのメロディーの美しさに、力強さが加わり完全無敵の状態になっています。
10曲目の”Watch Us Fall”:5作目のアルバム”Junk Culture”の”Talking Loud And Clear”を思わせるしっとりとした曲です。
事実上の”OMD”の最後のアルバム
このアルバムを最後に、創立時のメンバー(もともと、”Andy McCluskey”と”Paul Humphreys”の2人のユニットと言っても過言ではないでしょう)の”Paul Humphreys”がバンドを去ることになりました。
その後、”OMD”は、実質、”Andy McCluskey”のソロ・プロジェクトという形で、3枚のアルバムを発表しています。
本当に、「エノラゲイの悲劇」に次ぐ、悲劇です。
“Paul Humphreys”を欠いた”OMD”は、「坂上二郎」のいない「コント55号」です。
本作”Pacific Age”は、残念なことに、実質”OMD”のラスト・アルバムです。
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