【洋楽】おすすめのアルバム”Look Hear?” : “10cc”

“10cc”の7作目のアルバムです。

残念ながら、前作の傑作アルバム”Bloody Tourist”ほどの商業的な成功は認められなかったものの、アルバム・タイトル、アルバム・ジャケット、アルバムの構想など注目すべき点が数あるアルバムです。

まず、アルバムのコンセプトですが、「現代人の心の病」です。

アルバム・テーマが少々重いテーマであったためか、商業的に振るわなかったのかも知れませんが、アルバム販売当時よりも、現代の世相にこそより当てはまるテーマではないかと思われます。

アルバム・ジャケトも、羊が、精神科医の治療用のカウチに横たわっています。

また、販売された国・地域によっては、ただ、”Are You Normal”の白い文字が黒い背景に記されただけのデザインのものもあります。

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 出典:Hipgnosis

“Are You Normal”「あなたは、大丈夫」と語りかけている文字にも、無数のひび割れがあります。

蝕まれた精神の象徴のような文字のデザインです。

さらには、アルバムのインナー・スリーブには、”Are You Alone”や”Are You Safe”、CDのレーベルには、”Are You Ready”の文字が刻まれています。

アルバム・ジャケットの裏面には、”The Group”の文字が刻印されていて、”10cc”は、”Eric Stewart”と”Graham Gouldman”の2人のユニットではなくて、”Group”(バンド)ですよというメッセージを感じます。

実際に、”Eric Stewart”と”Graham Gouldman”以外のメンバーが作った楽曲やリード・ボーカルを務める曲も収録されています。

そして、アルバム・タイトルの”Look Hear?”ですが、”Look Here”「こっち向いて」をもじったもので、”The Beatles”の”Rubber Soul”(”Rubber Sole”「ゴム底」)のような言葉遊びにつながるものです。

(”The Beatles”自体も、”Beetle”「カブトムシ」と”Beat”(音楽のビート)をかけたものですね)

それでは、”10cc”の”Look Hear?”の問いに、耳を傾けて、”Are You Normal”「あなたは大丈夫ですか」の自己診断をしてみましょう。

“Are You Ready”「用意はいいですか?」

<曲目リスト>

  1. One -Two-Five
  2. Welcome to the World
  3. How’m I Ever Gonna Say Goodbye
  4. Don’t Send We Back
  5. I Took You Home
  6. It Doesn’t Matter at All
  7. Dressed to Kill
  8. Lovers Anonymous
  9. I Hate To Eat Alone
  10. Strange Lover
  11. L.A. Inflatable

現代にも通じる精神の闇 その治療方は

1曲目の”One -Two-Five”: “Look Hear?”からの第一弾シングルです。

先行シングルとして、インパクトが弱わかったせいか、その後のアルバムの売上に影響したのかも知れません。

サビの部分のメロディーなんかは、秀逸なのですが・・・。
“125”というのは、体温で、勿論華氏125度ということですが、摂氏に換算しても、50度超ですから、大変な高熱です。

2曲目の”Welcome to the World”: リード・ボーカルは、”Eric Stewart”ですが、キーボード奏者の”Duncan Mackay”とギター奏者の”Rick Fenn”の共作です。

“Welcome to the World”、病んだ社会へ生まれてくる子供たちを歌った皮肉めいた曲です。

3曲目の”How’m I Ever Gonna Say Goodbye”: リード・ボーカルは、”Graham Gouldman”がとっているものの、”Graham Gouldman”と”Rick Fenn”の共作です。

“Eric Stewart”と”Graham Gouldman”のコンビ以外の共作も本アルバムの特徴です。

4曲目の”Don’t Send We Back”: “Rick Fenn”の作曲で、リード・ボーカルも担当しています。

“Don’t Send We Back”「我々を受け入れてくれ」とインドネシアからのボート・ピープルの悲痛な叫びです。

アメリカの大統領が代わり、移民入国禁止の大統領令が出され、各国首脳が意を唱える声明を出し、アメリカ司法省のトップが意を唱えクビになりましたが、日本の首脳は沈黙を保ったままです。

移民の問題ももともとは、各地で起きている民族や宗教間の紛争が原因でしょうから、社会の病理は収束に向かう気配を一向に見せません。

6曲目の”It Doesn’t Matter at All”: これぞ、”Eric Stewart”と”Graham Gouldman”の黄金コンビの作品です。

やはり、メロディー・ラインは、甘美で、”Eric Stewart”の歌声は、どこまでも甘く極上のポップ・ソングであると思いますが、セカンド・シングルとして、チャートを駆け上げることはありませんでした。

それでも、曲の価値は少しも揺るぐことはなく、”It Does’t Matter at All”「一向に構わない」と言いたいところです。

(当人たちにとってはそういう訳にはいかないかも知れませんが・・・。)

7曲目の”Dressed to Kill”: “Eric Stewart”のスライド・ギターのソロが、堪能できます。

“Eric Stewart”のスライド・ギターと言えば、3作目の”The Original Soundtrack”の”Blackmail”でも披露されていました。

“Dressed to Kill”「殺すための服装=殺人用の服」とかいうのは、正しい解釈ではありません。

実際には、男性を一瞬で悩殺してしまうようなハッとする程、セクシーな服装の女性を形容する表現です。

8曲目の”Lovers Anonymous”: 惜しいです。

この曲を、先行シングルで発表していたら、アルバム”Look Hear?”の売れ行きはもう少し違うものになっていたかも知れません。

楽曲の素晴らしさといい、”Eric Stewart”のギター・ソロといい申し分ないです。

“I’m a fool for falling in love again”「僕は愚かです。また恋に落ちてしまいました。」

「恋の病い」は、現代の病理ではありません。

太古から人間に巣喰う病理です。

9曲目の”I Hate To Eat Alone”: “Graham Gouldman”が、恋人もいなくひとりで食卓に向かう寂しい男のせつない気持ちを美しいメロディーにのせ歌い上げます。

アコースティック・ギターも”Graham Gouldman”が弾いています。

次作のアルバム”Ten Out of 10″の”Don’t Ask”にも通じる曲です。

“Graham Gouldman”は、恋人のいない独り身の心境を歌にしていますが、翻って、ここ日本では、一家の大黒柱が、仕事でくたくたになって帰って一人で夕食をというケースが結構多いのではないでしょうか。

家族と一緒に楽しい時間を過ごすことができないなんていったい何のために働いているのかという疑問が湧いてくることもあるでしょう。

これも現代の病理のひとつの原因というか結果のような気もします。

「プレミアム・フライデー」(月末の金曜日は午後3時に仕事を切り上げて余暇に使いましょうというキャンペーン)というのが最近始まりましたが、毎日がプレミアム(家族と一緒に食事ができる)であって欲しいですね。

10曲目の”Strange Lover”: セカンド・アルバム”Sheet Music”の”Baron Samedi”「サメディ男爵」に始まり、やがては、次作のアルバム”Ten Out of 10″の”Notel Hotel”に続く、”10cc”お得意のホラー・ソングです。

「恋人は吸血鬼~♪」穏やかではないですね。

“You Drink Me Dry”「カラカラになるまで飲み干す」という表現が恐ろしくも、おかしくもあります。

“AOR”に分類しないで

収録曲の紹介をしていたら、驚く程良い曲があることにあらためて気づかされました。

何で、売れなかったのか不思議ですが、価値あるアルバムであることは疑いの余地がありません。

それも、現代の我々にとって、ますます耳を傾けなければならない課題に気づかされるものでした。

ところで、ライナー・ノーツの解説でも、このアルバムを期に、”10cc”は、”AOR”路線に転換していくなどの表記を見かけます。

恐らく次作の”Ten Out of 10″は、完全な”AOR”的なアルバムという判断でしょうが、その分類には非常に不満が残ります。

決して”AOR”自体や、”AOR”に分類されるミュージシャンを悪く言うつもりはありませんが、”10cc”を”AOR”に分類することは、”10cc”の終わりを意味するように思えてなりません。

“Eric Stewart”と”Graham Gouldman”の2人が作り出すメロディーは極上で、本当に耳に心地良いものですが、「いい曲だったね」で終わるだけの浅い音楽ではありません。

歌詞に込められた意味や、楽曲の奥深かさをもっと味わいたいものです。

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