バンドの方向性を確立させたといえる一枚が、アルバム”Listen Like Thieves”と言えるでしょう。
一曲目の”What You Need”で、バンドの音楽性は、ぴたりと焦点が定まったという感じでしょう。
この”What You Need”と、それに続く、”Listen Like Thieves”、”Kiss The Dirt (Falling Down The Mountain)”の切れ味は鋭く、冒頭の3曲の併せ技は圧巻です。
“INXS”黄金時代の幕開けです。
<曲目リスト>
- What You Need
- Listen Like Thieves
- Kiss The Dirt (Falling Down The Mountain)
- Shine Like It Does
- Good And Bad Times
- Biting Bullets
- This Time
- Three Sisters
- Same Direction
- One X One
- Red Red Sun
自分たちの音楽性を覚醒したアルバム
1曲目の”What You Need”:
前作のアルバム”Swing”に収録された”Original Sin”で、一躍、人気を得て、その名を轟かせた”INXS”でしたが、ダンサンブルでエレクトリック・ポップ調のこの曲は、プロデュースの”Nile Rodgers”「ナイル・ロジャース」によるところが大きく、どこか借り物という気がしました。
現に、”INXS”は、のちに、この手の曲は手掛けていないことからも、自分たちもあまりしっくりとこなかったように思えます。
ところが、この曲”What You Need”や、このアルバム”Listen Like Thieves”は、自分たちも大いに納得し、何か吹っ切れたような爽快感があります。
それは、音楽スタイルだけではなく、演奏にもはっきりと感じられます。
バンドのフロント・マンである”Michael Hutchence”「マイケル・ハッチェンス」のボーカル以外にも、目を引くのは、サックス奏者の”Kirk Pengilly”:「カーク・ペンギリー」でしょう。
この曲”What You Need”でも、胸のすくようなサックス・プレイを披露してくれていますが、後の数々の名曲にも彼の演奏は欠かせないものになっています。
他のパートの演奏も、小気味良いほどのキレ具合をみせており、それぞれが主張し合うのではなく、見事に絡み合って、抑えきれることができないぐらいの高揚感を覚えます。
2曲目の”Listen Like Thieves”:
続く、表題曲でもあるこの曲は、冒頭の”What You Need”と同様、各パートの演奏が、小気味良いほどのキレ具合をみせており、それぞれが主張し合うのではなく、見事に絡み合って、抑えきれることができないぐらいの高揚感を覚えます。
3曲目の”Kiss The Dirt (Falling Down The Mountain)”:
前奏のエッジの効いたギターの音が、否でも応でも、緊張を高めます。
そして、それは心地よい間での吹き抜けるような爽快感に変わります。
それほど、アップ・テンポでもなく、ダンサンブルでもない曲調であるにもかかわらず、小躍りしたくなるようなリズム・セッションの演奏が冴えわたっています。
ここまでの3曲は、どれもがシングル・カットされている名曲で、立て続けに聴かされると圧巻ですが、最初からこんなにとばして大丈夫かと心配になるほどの勢いです。
この最初から、ピークに持ってきて、冒頭から3曲も突っ走る手法は、”XTC”の”Oranges & Lemons”を思い浮かべます。
>アルバム”Oranges & Lemons”に関する記事はこちらから
4曲目の”Shine Like It Does”:
やはり、波に乗っている時期のアルバムには、シングル・カットされていない曲にもクオリティの高い曲が多く含まれています。
“Oasis”「オアシス」の”What’s the Story Morning Glory”、あるいは、”The Cranberries”「クランベリーズ」の”Bury The Hatchet”がそうであるように、あふれんばかりのイマジネーションが次から次へとわいてくるのでしょう。
低く押し殺したようなスロート・ボイスの”Michael Hutchence”の歌声は、”Fiction Factory”「フィクション・ファクトリー」のボーカリスト”Kevin Patterson”「ケビン・パターソン」をも連想させ、ゆるぎない自信さへも感じられます。
>アルバム”What’s the Story Morning Glory”に関する記事はこちらから
>”Fiction Factory”に関する記事はこちらから
6曲目の”Biting Bullets”:
冒頭3連続のシングル・カットにも負けないぐらいのポテンシャルをもった楽曲です。
このような曲が、アルバムの中盤に控えているからこそ、冒頭にシングルを3曲ぶつけても、アルバム全体が中だるみすることなくリスナーを飽きさせることがないのでしょう。
まだまだ、”INXS”の音楽の”Bullets”「銃弾」は尽きることがありません。
7曲目の”This Time”:
この曲も前曲”Biting Bullets”同様、十分にシングル・カットできるほどの力作です。
アルバムの中盤に、もうひと山あるとは、何とも贅沢なライン・ナップです。
曲の前半は、ギターの軽やかな音色とともに静かに始まり、徐々に盛り上がりを見せたと思ったら一気に最高潮に達するという曲の構成力のすごさをまじまじと感じさせる一曲です。
たった、3分で決着をつける見事な曲の展開です。
そういえば、あの名曲”Never Tears Us Apart”(次作のアルバム”Kick”に収録)も、3分あまりの曲であれだけの世界を作り出していたのは実に驚異的でした。
守破離(しゅはり)の道への出発点
このアルバム”Listen Like Thieves”で、自らの音楽を確立した後の、彼らの音楽活動はまさに破竹の勢いでした。
続くアルバム”Kick”、その後の”X”とその勢いはとどまるところを知りません。
このアルバム”Listen Like Thieves”以前の彼らの音楽は、自分たちの音楽とは何かという模索していた状況だったのではないでしょうか。
自分たちの音楽が確立していない状態での、様々な試みは、「模倣」とか「一貫性がない」とネガティブな評価を受けてしまいそうですが、ひとたび、自分たちの音楽が確立してしまえば、それは、「挑戦」とか「自分たちの殻をやぶった」と好意的な評価を受けることになると思います。
このアルバム”Listen Like Thieves”で”INXS”は、「守破離(しゅはり)」ともいえる独自の音楽活動の道を一歩、踏み出したいえるのではないでしょうか。
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