“10cc”4作目のアルバムにして、”Lol Creme” と “Kevin Godley”在籍の最後のアルバムです。
“10cc”と言えば、”I’m Not in Love”と言われるほどの代表曲を収録しているアルバム”The Original Soundtrack”の次作となるアルバムです。
“10cc”のすごいところは、大ヒット曲を踏襲するような曲は作らないことです。
2匹目のドジョウを狙わなくても、”I’m Not in Love”に負けないぐらいの名曲は、このアルバムにもちゃんと入っています。
今回のアルバムは、邦題が、「びっくり電話」とあるように、「電話」がテーマとなっています。
しかし、個々の曲が、同一の曲の中で驚くほど曲調が変わるように、アルバムとしての統一感はありません。
かと言って散らかった印象はなく、それぞれが強力な個性を持った作品です。
<曲目リスト>
- How Dare You
- Lazy Ways
- I Wanna Rule The World
- I’m Mandy Fly Me
- Iceberg
- Art For Art’s Sake
- Rock’N’Roll Lullaby
- Head Room
- Don’t Hang Up
なんと!表題曲がインストルメンタル・ナンバー
1曲目の”How Dare You”:表題曲にして、「インストルメンタル・ナンバー」。
インストルメンタル・ナンバーをしかも1曲目にぶつけてきました。
余程、自信があるのでしょう。
“10cc”にしては、珍しく、ギターが唸り声をあげています。
2曲目の”Lazy Ways”に、美しいアコースティック・ギターの音色で繋げています。
3曲目の”I Wanna Rule The World”:前奏のドラムの音が、「水戸黄門」のテーマソングかと思いきや、目まぐるしく曲調が変わる音の宝石箱。
“The Worst Band In The World”(アルバム”Sheet Music”に収録)を思わせる”10cc”お得意の曲の展開です。
こういうところが、ブリティッシュ・ロック好きのファンには堪らない部分(中毒性があります)ですが、”Air Supply”好きには鼻につくのでしょう。
4曲目の”I’m Mandy Fly Me”: 前奏が、自身のオリジナル曲”Clockwork Creep”(邦題「時計じかけのクレープ」(「時計じかけのオレンジ」のパロディー):アルバム”Sheet Music”に収録)の一部分を切り取ったフレーズで始まります。
上手いこと、まるで一曲のように繋がっています。
その後、口笛を思わせるシンセサイザーの音が、ギターに変わり、美しい前奏は続きます。
凝った前奏とは、対象的に曲の全体的な雰囲気は、真っ向勝負の実力作です。
間奏部分も印象的で、アコースティック・ギターの重厚な演奏の後に、キレのあるギターのソロが美しいメロディーを奏でます。
間奏の後は、それまでとは、別の主題が流れ、この曲の幅が拡がっていきます。
前奏、間奏、1つめの主題、もう1つの主題とそれぞれが高いクオリティーを持っていて、非常に完成された曲です。
5曲目の”Iceburg”:”Life is a Roller Coaster,「人生はジェット・コースター」”で始まるユニークな曲です。
確か、前作では、”10cc”は、”Life Is a Minestrone「人生は野菜スープ」”と言ってました。
いろいろな人生があるということですね。
ところで、楽器のクレジットに、”Levi Zip”という記述があります。
これは、”Eric Stewart”が、曲中に、「リーバイス」のジーンズのファスナーを”ジーィッ”と下げおろした音を指しています。(独特のウッィトですね)
(”You’ve Heard Me Heavy Breathing on the Telephone”の後、1分50秒あたりです。聞き取れたでしょうか)
6曲目の”Art For Art’s Sake”:邦題は、「芸術こそ我命」。
そのくせ、曲中では、”Gimme a Cash”「現金をよこせ」とか、”Money for God’s Sake”「後生だからお金をちょうだい」と歌っているのは、”10cc”ならではのシニカルな一面ですね。
アルバムでは、シングル・バージョンと違ってロング・バージョンで、ベースの音も一段と盛っています。
7曲目の”Rock’N’Roll Lullaby”:そんなジャンルの音楽があってもいいかも知れませんね。「ロックンロールが子守唄」素敵ですね。
子守唄にふさわしく、心地良い眠りにつけそうな美しいサウンドです。
9曲目の”Don’t Hang Up”:この曲こそが、”10cc”の代表曲と言われる”I’m Not in Love”に匹敵する名曲です。
ただ、”I’m Not in Love”のような万人受けする曲ではありません。
そして、一度聴き始めたら、曲が終わるまでじっと聴き続けて欲しい曲です。(決して何かをしながら聴くような曲ではありません)
曲を聴き終わった後は、何かいい映画を見た後の清涼感に包まれたような印象です。
いくつかの曲調の変化があり、それぞれが美しいメロディーを奏で、壮大なドラマに仕立て上げています。
私にとっては、こちらの方が、”10cc”を代表する曲のように思えます。
“Godley&Creme”の新たな旅たち
“How Dare You”、4人の持ち味がいかんなく発揮されたアルバムとなりました。
できれば、”Lol Creme”-“Kevin Godley”と、”Eric Stewart”-“Graham Gouldman”の4人が揃ったアルバムをもう少し聴いてみたかったという残念な気持ちは拭えません。
しかし、それも叶わぬ夢となった今、我々は、2つの偉大なバンドの個性を味わい尽くすしか道はないのでしょう。
![]() |
新品価格 |