“10cc”の5作目のアルバムで、”Lol Creme”と”Kevin Godley”脱退後、初のアルバムです。
邦題は、「愛ゆえに」ですが、原題にある”Deceptive”という単語は、「欺瞞(人を欺くような)」という意味なので、純粋な愛とは、言い難いです。
本人たちは、「愛ゆえに」などという題名を付けられていると知ったら面映ゆい気持ちになるでしょう。
<曲目リスト>
- Good Morning Judge
- The Things We Do for Love
- Marriage Bureau Rendezvous
- People in Love
- Modern Man Blues
- Honeymoon with B Troop
- I Bought a Flat Guitar Tutor
- You’ve Got a Cold
- Feel the Benefit, Pt. 1-3
“I’m Not in Love”だけじゃない名曲の数々
2曲目の”The Things We Do for Love”:シングル曲であり、邦題が「愛ゆえに」で、アルバム・タイトルと同一のため日本版で言うところの表題曲になっています。
実質、表題曲と言っても過言ではない曲の仕上がりです。
“10cc”の代表曲は、”I’m Not in Love”ではなく、この”The Things We Do for Love”だと言ってもあながち間違いではないでしょう。
よく、”10cc”の音楽を、”Lol Creme”と”Kevin Godley”在籍時代をプログレッシブ・ロックと呼んだり、それ以後を”AOR(Adult Oriented Rock)”と呼んだりすることがありますが、とりわけ”AOR”への分類には違和感があります。
“AOR”というのは、落ち着いた耳に心地良い音楽を連想させますが、”10cc”の音は、耳に心地良いことは確かですが、それは、メロディー・ラインが格別に秀でているからであって心地よさを志向しているわけではないからです。
3曲目の”Marriage Bureau Rendezvous”: シングル曲でもないのに、このクオリティー。
私は、「このアルバムは、いい曲がたくさんあります。捨て曲なし。」という表現が嫌いです。
(「捨て曲」の意味は、アルバムの体裁を保つために収録されている「どうでもいい曲」ということなのでしょうが、そんな曲は、1曲もないよ。」というアーティストへの賛辞なのでしょうが、仮に、この”Marriage Bureau Rendezvous”が「捨て曲」じゃないとう表現をしたらアーティストに対して大変失礼だと思います。
アーティストはアルバムに心血を注いでいます。)
当然、1枚のアルバムには、好きな曲とそうでない曲があると思いますが、コンセプトを持って作っている”10cc”のアルバムに関しては、もともと「捨て曲」などないのです。
4曲目の”People in Love”:”10cc”の代表曲というと、”I’m Not in Love”ですが、一番美しい曲と言うと、この”People in Love”に軍配が上がると思います。
メロディラインが、秀逸で、曲の構成も一風変わっています。
一般的な曲の構成は、前奏→Aメロ→Bメロ→サビ→間奏→Aメロ→Bメロ→サビ→エンディングというのが基本ですが、この曲は、Bメロにあたる”Look at the Smile in Her Eyes”で始まる部分が1度しか登場しません。
この最も甘美な部分が、ほんの僅かな時間しか使われないとは何とも贅沢な作りです。
6曲目の”Honeymoon with B Troop”:”10cc”お得意のちょっとオカルト的な曲です。
“Baron Samedi”(アルバム”Sheet Music”に収録)、”Strange Lover”(アルバム”LooK Hear”に収録)、”Notell hotel”(アルバム”Ten Out of 10″に収録)に通じるものがあります。
“Lol Creme”と”Kevin Godley”がいなくてもシニカルな部分は健在です。
9曲目の”Feel the Benefit, Pt. 1-3″:アルバム”The Original Soundtrack”に収録されている組曲”Une Nuit A Paris (Part 1) / The Same Night In Paris (Part 2) / Later The Same Night In Paris (Part 3)”同様の3曲からなる組曲です。
しかし、曲調はまったく異なります。
“The Original Soundtrack”の”Une Nuit A Paris”が、ロック・オペラだとすると、”Feel the Benefit”は、「ギター協奏曲」です。
時には壮大で、時には軽快で、ギターのソロありとバリエーション豊かな内容です。
そして全体的に言えることは、一曲一曲が美しいことと完成度が高いということです。
とにかく、”I’m Not In Love”だけのバンドではないということがお分かりいただけるアルバムだと思います。
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