“OMD”6作目のアルバムです。
タイトルの”Crush”は、「押しつぶす」「くしゃくしゃにする」の意味があり、従来の”OMD”=「エレクトリック・ポップ」の概念をくしゃくしゃにまるめて訣別するという決意の表れでしょうか。
このアルバムから、「エレクトリック」依存から脱却し、より彼らの音楽性が発揮されているように感じます。
もはや、「エレクトリック・ポップの覇者」”OMD”という冠は必要ないでしょう。
また、”Crush”は、”I Have a Crush on Her.”という文章になると、「私は彼女に夢中です。」「私は彼女にめろめろです。」のような意味になります。
きっと、音楽ファンは、このアルバム”Crush”にめろめろになること間違いありません。
<曲目リスト>
- So In Love
- Secret
- Bloc Bloc Bloc
- Women Ⅲ
- Crush
- 88 Seconds In Greensboro
- The Native Daughters Of The Golden West
- La Femme Accident
- Hold You
- The Lights Are Going Out
もはや、エレクトリック・ポップという冠は不要
1曲目の”So In Love”:従来の”OMD”の音を”Crush”させた衝撃的な曲です。
“Crush”(破壊)とか「衝撃的」という言葉を使いましたが、曲調は極めて穏やかで、従来のエレクトリックの技工的な部分は極力排除されて、”OMD”の持つメロディー・ラインの美しさなどのコアの部分がより鮮明になってきた兆しを感じます。
もはや「エレクトリック」とかそうでないかとかという議論は無意味になるほどの惚れ惚れする曲です。
2曲目の”Secret”:1曲目同様従来の音楽性の殻を”Crush”させる内容で、リードボーカルは、”So In Love”の”Andy McCluskey”に代わって、”Paul Humphreys”が勤めています。
曲の明るい雰囲気と、”Andy McCluskey”の透き通るような歌声が絶妙にマッチしています。
日本でも、スクーターの宣伝に使われたことがあるので、記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。
3曲目の”Bloc Bloc Bloc”:前奏のベースが渋く始まる(と思いきや、シンセサイザーによる合成音でした)”Andy McCluskey”と”Paul Humphreys”のボーカルの掛け合いが魅力的な曲です。
(2人のボーカルの見事な掛け合いは、4作目”のアルバム”Dazzle Ships”に収録の”Telegraph”にも見られます。”Paul Humphreys”の声がとても良いアクセントになっています。)
トランペットなどのブラスを多用し始めたのも、このアルバムからではないでしょうか。
4曲目の”Women Ⅲ”:従来の”OMD”には、明らかにない音です。
これまで、”Andy McCluskey”と”Paul Humphreys”の2人のエレクトリックを駆使したユニットという印象が強かった”OMD”でしたが、バンド・サウンドのようなものが芽生えてきました。
サックスの音もこの落ち着いた雰囲気の中にも躍動感のある曲のイメージに実に良くマッチしています。
5曲目の表題曲でもある”Crush”は、絵画でいう「コラージュ」のような作品です。
そのサンプリングに、彼らが来日した時に、興味を持った「アルタ」のコマーシャルが使われています。
このコラージュ作品にも、ブラス・セッッションが使われ、もはや、ブラスは彼らの曲に欠かせないアイテムとなりました。
6曲目の”88 Seconds In Greensboro”:今まで、ベースギターを担当していた”Andy McCluskey”が、ギターを弾いています。
バンド志向が強まり、この曲もギターの音が重要な役割を果たしているところに、”OMD”の「脱エレクトリック」の方向性が伺えます。
コーラスの独特な歌声は、アルバム”Architecture And Morality”の「ジャンヌ・ダルク」時代の荘厳な雰囲気を感じさせます。
8曲目の”La Femme Accident”:バイオリンのピチカート風の前奏で始まるこの曲は、随所にバイオリンの音色が響き渡る落ち着いた雰囲気の曲です。
こう見ると、”OMD”の音も随分と多彩になってきましたね。
9曲目の”Hold You”:8曲目の”La Femme Accident”と同様、じっくり聴かせる曲です。
間奏のサックスの音が哀愁を帯びていて心に染みわたりますね。
あだ名で呼ばないで!
ところで、”OMD”正式名は、”Orchestral Manoeuvres in The Dark”ですが、バンド名が長すぎてなかなか本名で呼んでくれないことが多いと思います。
そのため、早い段階で、”O.M.D.”と省略されることが一般的になっていったと思います。
幸運だったのは、日本式に、「オケ・マヌ」などと呼ばれなかったことです。
“Style Council”を「スタ・カン」や”China Crisis”を「チャイ・クラ」などと記述しているのをたまに見かけますが違和感を感じます。
若者文化あるいは時代の流れなのかも知れませんが、崇拝するアーティストを軽く扱っているようで私のようなおやじ洋楽ファンには一抹の寂しさを覚えます。
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