Swing Out Sister(スウィング・アウト・シスター)の9作目のアルバムです。
毎回、素晴らしいアルバムをリリースしてきた”Swing Out Sister”ですが、本作の”Beautiful Mess”を聴くと、今までの名曲の数々がかすんでしまうぐらいの圧倒的な存在感があります。
これほど完成度の高い曲が、次々に繰り出されるとは恐れ入ります。
驚くことに、このアルバムは、セルフ・プロデュースで、 “Corinne Drewery”と”Andy Connell”によって手掛けられたアルバムで、どの曲も、数回のテイクで収録されたということです。
ですので、何回も録音を重ねて、緻密に作り上げた完成度の高さではなく、湧いてきた曲のイメージを大事にしながら、ごく自然に奏でた結果の完成度の高さと言えるでしょう。
(そのような芸当ができるのは、”Swing Out Sister”の他にはそうそういないでしょうが。)
<曲目リスト>
- Something Every Day
- Time Tracks You Down
- Butterfly
- My State Of Mind
- I’d Be Happy
- Butterfly Lullaby
- Secret Love (You’re Invisible)
- All I Say, All I Do
- Out There
- Beautiful Mess
最初のテイクで決着!完成度の極み
1曲目の”Something Every Day”: このアルバムのほとんどの曲が、最初のテイクで決着がついたというから驚きです。
その音は、即興的とはとても言い難い完成度の高いものであるのに、さらに驚かされます。
前作のアルバム”Where Our Love Grows”は、幸福感が漂う音でした。
その良い雰囲気、心の状態で仕上げた結果なのでしょうか仕上がり具合が神ががり的です。
そして、この曲”Something Every Day”も、幸福感が漂ってきそうな夢見るように歌うベース・ギターが印象的です。
3曲目の”Butterfly”: このアルバムの中心となる曲で、完成度の高い曲が揃った中でも、一段と魅力的な曲です。
“Swing Out Sister”のメンバー自体も、きっとお気に入りの曲だと思います。
なぜなら、ボーナス・トラックに、別テイクのバージョンが収録されていますし、6曲目の”Butterfly Lullaby”は、この曲がモチーフになっているインストルメンタル・ナンバーです。
英語の慣用句に”have butterflies in one’s stomach”という表現があります。
直訳すれば「腹の中に蝶がいる」といった意味ですが、これは「緊張してドキドキする」様子を指す慣用表現です。
緊張で胸中がザワいている落ち着かない状態を、胸裡の蝶と例えた言い方です。
“Butterfly, Take to the Sky”「空まで飛んでいけ」とありますが、蝶というのは、美しくも、どこか危なっかしく儚い、恋のようなものですね。
ところで、”Butterfly”は、”Butter”と”fly”で構成されています。
“fly”は、「飛んでいるもの」=「昆虫」と解釈できるでしょう。
“Dragon”-“fly”で、「トンボ」、”Fire”-“fly”で、「ホタル」といった具合です。
“Butter”は、文字通り、あの「バター」です。
鮮やかな黄色が、あの「バター」を連想させたのでしょうね。
5曲目の”I’d Be Happy”: この曲も、楽曲は、完璧で、これ以上のものを望むのは欲深すぎます。
しかし、”Swing Out Sister”に言わせれば、 “Butterfly”の歌詞にもあるように、”Only a Fool is Ever Satisfied”「満足とはつまらない人がするもの」と切り捨てています。
ちょうど、”Wings(Paul Mccartney)”が、”Some People Never Know”(アルバム”Wild Life”に収録)で、”Only Fools Take Second Best”「愚か者だけが、2番目が一番いいと思っている」という表現に似ていますね。
英語特有の言い回しです。
それにしても、この曲の歌詞は切ないですね。
“I’d Be Happy to Live Without You”: 「あなたがいなくても私は平気」
“If I Knew There Could Be More to Love than This”: 「これまで以上に愛せる人がいるのなら」
強がっているようにしか聞こえませんが、本音だとしたら女の人は恐ろしいです。
6曲目の”Butterfly Lullaby”は、3曲目の”Buttefly”の美しいフレーズを散りばめたインストルメンタル・ナンバーです。
“Andy Connell”の意向が反映された夢見るようなロマンティックな感じに仕上がっています。
曲作りにおいて、”Corinne Drewery”と”Andy Connell”がその表現方法について、しばし衝突するときがあるようで、”Corinne Drewery”の表現を用いると、それはさながら親権者争いのような様相だということです。
この曲に関して言えば、”Andy Connell”が、その養育権を勝ち取ったようです。
7曲目の”Secret Love (You’re Invisible)”: 曲の冒頭の”Corinne Drewery”の切なげな歌声は、後半の曲の盛り上がりを予感せずにはいられません。
想像通りの、いえ、想像を上回る曲の展開は、一気に”Swing Out Sister”の上質な音楽の世界に引き込んでいきます。
楽曲の素晴らしさは、”Butterfly”と双璧をなすものですが、曲調が、これまでの”Swing Out Sister”にはなかったものです。
男女の愛や人生の無情感を漂わせています。
これが、”Corinne Drewery”の言うところの日本文化の「わび」「さび」というものでしょうか。
また、”Swing Out Sister”は、恐ろしく強力な武器を手に入れてしまったようです。
9曲目の”Out There”: さりげない曲調のなかにも、恐ろしい程の楽曲の完成度の高さを感じます。
また、底知れぬほどの感性の豊かさに身震いがします。
息を呑むほどの美しいメロディーと、しっとりとして、それでいて伸びやかな”Corinne Drewery”の歌声が胸を打ちます。
10曲目の”Beautiful Mess”: 「美しい混乱」のタイトル通り、完成度の高いアルバムでありながら、余分な音を排除した研ぎ澄まされた音というのとも違います。
むしろ、自然と湧き出た音は、排除することなくそのまま残し、そうしたノイズともとれる音も含めた美を追求したという感じです。
まるで、掃き清められた庭に、枯葉を数枚散らばめた風情をよしとした日本古来の美にも通じるものがあります。
これが最高到達点か?
“Swing Out Sister”が、デビューした時は、ファッション雑誌から抜け出たような華やかさが、実に衝撃的でした。
その印象から、流行りの音楽は、すぐに廃れてしまうだろうという予想をしていましたが、その予想は見事にはずれました。
本作の”Beautiful Mess”は、あまりの完成度の高さから、もうこれ以上のアルバムは、もう出てこないだろうという予感がします。
この予想も見事にはずれてくれると良いのですが。
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