“Blurs(ブラー)”の6作目のアルバムです。
プロデューサーに、”William Orbit”を迎え、新たな”Blur”の音を模索したアルバムです。
“William Orbit”と言えば、”Madonna”の”Ray of Light”のプロデュースを手掛けたことがまず頭に浮かびますが、この作品で、”Madonna”の音楽性が数段向上したように感じました。
“Blur”前作のアルバム”Blur”では、「セルフ・タイトル」のため、原点回帰とも言われましたが、シングル曲の”Beetlebum”を聴いたときには、これは、”Blur”の新境地だと思いました。
しかし、このアルバム”13″での音楽の変化をみれば、それは単なるマイナー・チェンジでしかなかったと言わざるを得ません。
今までの”Blur”にはなかったあまりに実験的なサウンドは、その検証には、まだ何年もかかるかもしれません。
<曲目リスト>
-
- Tender
- Bugman
- Coffee And TV
- Swamp Song
- 1992
- B.L.U.R.E.M.I
- Battle
- Mellow Song
- Trailerpark
- Caramel
- Trimm Trabb
- No Distance Left To Run
- Optigan I
“13”こそが原点回帰なのかも
1曲目の”Tender”: 前作のセルフ・タイトルのアルバム”Blur”のオープニング・ナンバーの”Beetlebum”を聴いたときは、あまりの衝撃に立ち尽くしましたが、今回のオープニング・ナンバーでは、凍りつきました。
「”Blur”が、ロンドン・コミュニティ・ゴスペル・クワイアと一緒に歌う。」
誰も想像しなかったことでしょう。
しかし、当人の”Damon Albarn”によれば、昔から「ブラック・ミュージック」をこよなく愛していたということですから、別に奇をてらったものでもないようです。
そういう意味では、前作の5作目にしてセルフ・タイトルの”Blur”よりも、さらに、原点回帰のアルバムなのかもしれません。
そう言えば、アルバム・タイトルも、前作の”Blur”よりも、さらにシンプルに、”Blur”の”B”を31アイスクリーム風(”Baskin Robbins”の”B”と”R”の文字をつなげて”31″と表記)にあしらった”13″のみですからね。
3曲目の”Coffee And TV”: 本作の中で、もっとも従来の”Blur”の音に近く、もっともキャッチーな曲です。
作詞とボーカルとシングル曲のCDカバーのデザインを、”Graham Coxon”が担当しています。
曲調こそ、従来の”Blur”の延長線上にありますが、楽器の切れ具合は、”Beetlebum”を彷彿するものがあります。
楽曲もキャッチーで魅力的ですが、ビデオ・クリップも傑作です。
タイトルが、”Coffee and TV”だけに、牛乳パックが、行方不明になっている”Graham Coxon”を、探す旅に出かけるシナリオです。
牛乳パックは、とうとう”Graham Coxon”を見つけ出し、心配している家族に無事、彼を送り届けるのですが、最後には、”Graham Coxon”にゴミ箱へ捨てられてしまいます。
そして、牛乳パックは、天へ召されるのですが、それは、まるで、この曲を最後に、”Blur”のポップ路線の終焉を暗示しているかのようです。
4曲目の”Swamp Song”: 何かと比較されることの多かった”Blur”と”Oasis”ですが、”Oasis”も”The Swamp Song”という曲を作っています。
“Oasis”の方の作品は、アルバム”(What’s The Story) Morning Glory?”のインストルメンタル・ナンバーで、同アルバムの名曲をつなぐ役割をしていて、よくライブでも演奏されていました。
一方、”Blur”の”Swamp Song”は、実験的なサウンドで、この曲から先は、従来の”Blur”のポップ・サウンドは期待してはいけません。
ポップで親しみやすい曲はありませんが、良質なサウンドを志向している姿勢は伺えます。
11曲目の”Trimm Trabb”: 実験的なサウンドと、”Blur”の本来持っているメロディー・メイキングの能力がもっともよく、調和した作品ではないかと思います。
アコースティック・ギターと、ピアノそして乾ききったパーカッションの音がちょっとしたアクセントとなって、曲全体を渋くまとめあげています。
12曲目の”No Distance Left To Run”: “Graham Coxon”の哀愁漂うギターや、”Damon Albarn”切ない歌声よりも、さらに悲愴感が漂うのは楽曲そのものの哀愁を帯びたメロディーではないでしょうか。
“It’s Over”という歌詞に、長年連れ添ったパートナーとの別れを受け止めなければならない”Damon Albarn”の悲痛の叫びとも思えます。
素材の旨みを上手に引き出す調理法
プロデュースを料理に例えると、プロデューサーの独自の味付けをして、どんな素材も同じような味にしてしまう人がいます。
一度大きな成功体験をした人にありがちなことです。
一方、素材の良さを引き出すような料理をするプロデューサーもいることでしょう。
本作のプロデューサーの”William Orbit”は、後者の人だと思います。
それは、”Madonna”の”Ray of Light”と本作の”Blur”の”13″を聴けばわかります。
両作品とも、アーティストの個性を矯めることなく、その良さを引き出して、そのクオリティーを数段引き上げています。
このアルバムを最後にギター・リストの”Graham Coxon”が、バンドを去ることになりますが(後に再加入)、アルバム・ジャケットも彼が描いていただけに残念です。
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